歌い方のヒント3
◆どんな時にも、歌うことの楽しさを、歌うことの喜びを、そして歌えることへの感謝を忘れてはいけません。
◆もし、声楽の道を専門的に志したり、あるレベル以上の発声法を身につけたいと思うならば、やはり、相当長期間にわたって、
熱意と集中力をもって取り組む必要があるだろう。
歌は誰にでも歌えるものであり、誰にでも楽しめ、正しい指導を受ければ、その努力に応じて誰でも上達するものではあるが、
連日、発声練習を繰り返し、様々な曲を歌い、試行錯誤を重ねる。そういった努力をすることなしに、やはり、あるレベルを超えていくのは
難しいというのが現実だと思う。
その際、注意するべきことは、「思うような声が出ない」とか「どうしたらよいか分からない」とか「自分は上手くならないのではないか」などと、
ネガティブな感情にとらわれないようにすることだ。
勉強の途次で「思うように声が出ない」のも「どうしたらよいか分からない」のも当たり前のことで、決してネガティブなことではない。
思うような声が出なくても、それは、その方法では上手くいかないという方法論を1つ学んだと思えばよい。
駄目な方法を1つ知るということも、一歩前進なのでる。学びは進んでいるのである。
ならば、次は何を試してみる？明日は何をやってみる？
そう、次こそは上手くいくかもしれない。明日こそは上手くいくかもしれない。
そういう期待と希望を持ち続けることだ。
上手くいったことの中にも、上手くいかなかったことの中にも学びはある。
上手くいったと思えば、そのことをさらに推し進めればよい。
上手くいかなかったと思えば、次は別の方法を試せばよい。
上手くいったかどうかが分からないですって？
それでは、そのヒントをお教えしましょう。
楽しく楽に歌えれば上手くいったのです。
苦しくて楽しくなければ上手くいかなかったのです。
そのような試行錯誤の繰り返しの中で、また1つ、また1つと、どのような声を出せばいいのか、どのように歌えばよいのか、
そのイメージをつかんでいくものなのです。
◆常に広い空間で歌うという意識を忘れてはいけません。
たとえ4畳半の自室で練習しようとも、もっと狭い練習室で歌おうとも、少なくとも数百は客席があるホールで歌っていると思うことです。
たとえ1メートル先が壁でも、あなたのイメージの世界の目には、数百人のお客さんが見えていないといけません。
その数百人の人々に向かって、あなたの感じたことを語りかけるのです。
あなたの声を使って、音程とリズムを使って語りかけるのです。
◆イメージの世界には限界はなく、不可能なこともありません。イメージした広い空間の中へ、自己が拡大していきます。
あなたがイメージできる範囲は、あなたの世界です。
あなたのイメージの身体は、ホール全体へと拡大していき、あなたの中にホール全体がすっぽりと収まります。
数百人のお客さんも、全てあなたに包み込まれています。
もう、あなたと数百人のお客さんは一体です。
あなたには何も恐れるものはなくなり、リラックスして、あなたの感じたままを表現できるでしょう。
◆歌いながら上顎から口腔内の口蓋が、より高くより前方へ、立体的に拡大し続けていくとイメージするとよい。
◆声帯や口の周囲で発声、発音しようとするのではなく、上記の上顎から口蓋が上方と前方に拡大したイメージの空間の中で発声、発音する。
母音を、口の形を変えて変えようとしてはいけない。どの母音も前方の空間の広さは同じに保つ必要がある。
その空間内のイメージで母音を変え、つられて自然に口の形が変わるようでなければいけない。
特に「イ」や「エ」の母音は、イメージが狭くなりやすいので注意が必要だ。
普段の会話では、誰でもイメージの世界で母音を変え、5つの母音を自由に操っている。
誰も口の形を変えることを意識して会話をする人はいない。
歌う時だけ、わざわざ不自然なことをする必要はない。普段、話している時の自然な感覚を利用し応用しよう。
◆明るく軽い声は、声の様々なトラブルを解消し、健全に保つ万能薬だと言ってよい。
一方、暗く重たい声は、全てのトラブルの元となる。
明るく軽い声を出すための秘訣は、母音のイメージを小さく（音量を小さくではない）することだ。
母音のイメージが大きいと、暗く重い声になりやすい。
母音のイメージを小さくする感覚をつかむためには、声を最初から拡大しようとしないで、必ず小さな穴を通してから拡大させることだ。
その具体的な方法はベルカント唱法の基本原理のページの後半のゴムホースによる水撒きの例えや、
顔の前に小さい円を思い描く例えを参照して頂きたい。
◆自然な発声（＝ベルカント唱法）ができているかどうかの簡単なチェックポイント。
それは、歌った後、すぐに同じポジション、同じのどの状態で喋ってみることだ。「こんにちは」でも何でもよい。
イタリア人がイタリア語を話すのと同じように歌うのがベルカントなので、ベルカント（＝自然な発声）ができていれば、
直後の話し声も、若干、イタリア語的にはなっても、それほど不自然でおかしな声にはならないはずだ。
◆特に男声の声区の転換についてのヒント
声区の転換の、最も基本的なことは、無理やり変えようとするものではないということだ。
声区の転換と高音発声の※補足1注1・・・母音の特性についてを参照して頂きたいが、
母音「エ」「ア」「オ」については、中高音〜高音のファ♯（Fis音）あたりへきた時に、それ以下の音域と
同じ音色を保とうとすると、のどの状態（構造）が変わってしまって、かえって苦しく不自然な声になってしまう。
そこで、のどの状態（構造）を、それ以下の音域や「イ」「ウ」の母音と同じに維持しようとすると、
声の音色の方が自然と変わっていく。
なお、このようなのどの状態の維持による音色の変化が必要とされるのは、「エ」「ア」「オ」母音の
中高音〜高音のファ♯・ソ・ラ♭（Fis・G・As）の3音であるが、表現の手段として、その前後のいくつかの音でも用いられることがある。
ただ、この場合には、本来は必要のない音で音色を変えるわけだから、やや人工的な声という印象を与える。
また、声区の転換の応用として、暗く重めの声を作る時（どうしても表現上必要な時限定）に、このテクニックを使うこともあるが、
基本テクニックとしては、声を重くすることとイコールではないので注意が必要だ。
もちろん、ポジションを下に下げることとも違う。
◆吸気時は横隔膜を下に下げながら前後左右の外側に張り出していくことによって、肺の下部を広げ息を深く吸い込む。
横隔膜を傘に見立て、へそを支点にして下向きに（地面に向かって）開いていくとイメージするとよい。
始めのうちは、ゆっくりと4〜5秒かけて、へその下の下腹部（腸のある辺り）と、背筋を使って背中の下部・腰の上部辺りを膨らませながら
息を引き込むようにするとよい。もうこれ以上吸えないというほど、言い換えれば、腹部や胸部がパンパンになって苦しくなるほど
吸ってはいけない。実際の歌唱時には、一瞬で息を吸い込む必要があるので、上記の下腹部と背部を一瞬で膨らませて、
顔の前にある透明な袋に入った空気の塊を、その位置（膨らませた場所）までストーンと一気に落とし込むようにするとよい。
ゆっくり吸う時には静かに音を立てずに吸うべきだが、一瞬で吸う時には、多少の吸気音がしても構わない。
呼気時（発声時）には、吸気時に作った下腹部から背部の膨らみを維持しようとすることが大切。これにより横隔膜による息の保持が
可能となる。重要なのは息を吐くことではなく、息を保持して、その一部の息を使い、少量の息を全部音声に転換することなのである。
そのためには、吸気時に開いた傘（下腹部から背部の膨らみ）が、呼気（発声）に移行すると共に閉じられていく(下腹部や背部が内側に
入っていくこと）がないように、呼気（発声）が続く間、傘を開いた状態（下腹部から背部を膨らませた状態）を維持するように、
軽く外側への圧力をかけ続ける必要がある。それは力むような強い力ではなく、広げたものが戻らないようにするための
軽い力でなければならないが、高音を維持したり、強めの声が必要な時には、声を出しながら、下腹部から背部にかけての膨らみを
さらに外側に広げるようにして横隔膜の緊張感を高めると、息を保持しながら呼気の圧力を高めることになり、
その目的の達成を容易にすることができる。
呼気時（発声時）に腹部を引っ込め、中に押し入れる方法は、瞬間的に高音や劇的な声を出すためには有効なこともあるが、
多く場合、声帯に過度の負担をかけ、過度のスタミナを消耗させる体力勝負の根性型発声となり、高音の発声困難、
声の持久力の低下、息漏れやかすれ声、発声障害等の原因ともなるので注意が必要である。
腹筋運動やウエイトトレーニングのための力の使い方と、歌うための力の使い方は同じではないのである。
◆呼吸においても、いちばん大切なことは楽であることだと言ってよい。
吸気においても呼気においても、息苦しかったり、どこかが苦しかったり痛かったり、どこかに無駄な力が入ったり、
どかかにつかえたような感じがするのは、全て不自然な呼吸だと言える。
呼吸は歌う以前に、人間の生命維持に不可欠なもの。それが苦しくては、そもそも歌うどころではなくなってしまう。
本当は、呼吸は自然にできているのがいちばんだとも言える。
日常生活でも、あまり呼吸を意識し過ぎると、かえって不自然になって、息苦しさを感じたりすることもある。
呼吸が苦しいなら、むしろ呼吸のことは全く考えずに歌った方がよい場合もある。
呼吸を意識するなら、呼吸をすればするほど楽になるというイメージが必要だだろう。
呼吸が苦しい原因は多々あろうが、多いのは息の吸いすぎと力の入れすぎだろう。
息を必要以上に吸い込めば、それだけで苦しくなる。
息を吸い終わった時点で苦しさを感じるなら、思い切って息を吸う量を少なくするべきだ。
息は保持することによる使い方が大事なのであって、量が大事なのではない。
そのような場合には、むしろ息を吸わないで歌い出す習慣をつけるといいかもしれない。
出だしで息を吸わなくても、意外と歌えるもので、慣れれば、必要な量だけ自然に入ってくるようになるものだ。
機械的に、いつでも同じ呼吸をしようとすることは大敵です。
24時間365日、同じ呼吸を続けている人なんていません。
それが歌うとなると、なぜ機械的な呼吸の繰り返しになってしまうのでしょう。
その時に伝えたいこと、表現したいことによって、呼吸も自由に変化しなければなりません。
表現は息を吸う時から始まることを忘れてはなりません。
あなたは何を伝えるために、何を表現するために、今、息を吸おうとしているのでしょうか？
呼吸法と声の支えの基本と呼吸法・・・補足1・2も参照して下さい。
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